『皆さん方、落ち着きなはれ。

 お客さんの対応を放るのは失礼や。
 直ぐに戻って謝りぃ。

 あと、仕事がある人も戻りなさいな。

 お話なら後で幾らでも聞きますさかい』


京言葉は、久々に使った。

何回やっても慣れないんだよね、この喋り方。

しかし、きちんと効いたようだ。


「「「…っ、はい、紅王様」」」


皆目を輝かせて僕を見上げると、一斉に頷いて元の場所へ戻っていった。

ふぅ、この役は疲れるもんだな。


息をつくと、トシくんに「アンタ何者だよ…?」と本気で疑われた。

ニコニコしている灯里さんに先を越される前に、僕は大きく溜息をついて、口を開いた。



『…十年前、ここで働いてたんだよ』



何故か本来の用心棒の仕事ではなく、
“花魁”として、ね。

口が裂けても言いたくないけど。

あの時は大変だったなぁ。

あの日々は、僕にとって恥と言っても過言ではない。

自分が男なんだか、女なんだか分からなくなったよね。


濁りきった目でふ、と自嘲する。



「はぁああ!?」

トシくんは絶叫しました、そりゃ当たり前だよね!!