「前,隠した方がいいですよ」
はい? と,私は背を逸らして問う。
何の話と下を見て,ぎょっとした。
「ちょっと! どんな神経してるの? 気付いたなら顔くらい逸らしてよ!!!」
最低,と私はバックを胸に抱き締める。
「……やだな,事故ですよ」
すっと目を逸らした千代くんは,私の目の前で自分のブレザーを脱ぎ始めた。
「ちょ,ちょっと……いらない,から」
濡れるでしょ,とぼそり呟く私。
血夜くんは私をちらりと見て,結局脱いだそれを目の前でパサパサと整える。
「それ,ただの水ですよね? 乾かせば済む話ですし……朱鳥さん,帰るまでずっとそのままのつもりですか? 後ろはどうするんです? 前だって僕が落ち着かないだけですよ」
「……ありがとう」
路地裏のくらい場所でバックを下ろし,私は濡れた服の上に受け取ったブレザーを着た。
袖の長さは問題なかったけど,それ以外が少し大きい。



