ガタン、ガタン、ガタタタタタタ

(た、高ぇ)
 柚樹と柚葉を乗せたジェットコースターが天に向かって垂直に昇っていく。先頭車両の恐怖……半端ない。

 柚樹の喉は張り付いてカラカラだ。ごくりと何度も唾を飲むのに、砂のようにざらざら乾いていく。
 今乗っているのは、ドリームランド名物『脳天直撃コースターマックス』身長制限140㎝以上。
 前に来たときは、身長が足りなくて乗れなかった。
 いや、身長が足りていても、絶対に乗りたくないアトラクションである。

(なぜ、オレはこんなことに……)
 それは少し前の、柚葉的に言うなら過去の自分の発言のせいだった。


「柚樹って絶叫系イケるタイプ? ほら、男の子でもダメな人とかいるでしょ」
 柚葉に聞かれて、つい柚樹は見栄を張ってしまったのだ。

「超得意だし!」
 男のサガってやつだった。

「本当に?」
「なんなら、父さんよりも得意だし」

 間違ってはいない。
 だって父さんは超がつくほど絶叫マシーンが苦手で、子供用のコースターすら乗れないんだから。

 小3のときも、柚樹と母さんが子供用コースターに乗り、下で父さんが手を振っていて、「逆じゃね?」と子供ながらに突っ込んだくらいだ。

「なら私とおんなじね!」
 にっこり笑う柚葉が熱く見つめる先を見て、ゲッと、柚樹は青ざめた。
 高層ビル並みの高さから脳天直撃コースターマックスが、衝撃のスピードで垂直に落ちていた。

「あ、でもオレ」
「あれ乗ろ!」と、いうわけだった。
 そして今は、スッカスカな平日の昼間なのだった。

 土日なら長蛇の列の脳天直撃コースターマックスの待ち時間は、あろうことか「5分」。
 あっという間に乗り場まで来てしまった。

(5分なんて、嘘だ! 詐欺だ!)
 待ち時間の看板から乗り場まで1分もかからなかったぞ。とか、思っている間に、先頭の席に座らされ、ガシャンと上からベルトが下ろされたのである。

 などと、懐古している間にも、柚樹の乗ったコースターは天に昇っている。

 がったん、がったん、がったん。と、もったいぶるように、いたぶるように。

 頭が重力で後ろにぐいと引っ張られている。コースターの車輪の音が妙にゆっくりな音を立てていて、反比例するみたいに柚樹の心臓の鼓動は激しさを増していく。

(ああ、神様)
 柚樹は何に対してかわからない祈りを捧げていた。恐怖で心のテンションがおかしくなっている。

 一方の柚葉は「うっわー、たかーい。ドキドキするね~」と隣で無邪気に喜んでいた。なんだ、この人。

(つか、スタッフさーん、なんでオレらを普通に入場させちゃったんですか~)

 こうなってくると、平日に子供二人で訪れたにも関わらず、簡単に入場を許してしまったドリームランドの窓口のお姉さんまで恨めしい。