「来年も一緒に見に来ようね。」

太陽のような笑顔で振り向いた彼女は、桜の花びらが散る頃に消えた。

───来年も一緒に

この言葉が現実に変わる瞬間はもう二度と来ない。

お互いに叶わないと分かった上で結んだ約束だった。

でも、言霊とやらの力で叶うのではと希望を抱いたから結んだんだ。

そんな僅かな希望さえも形にしてくれない神様は、きっと不公平で無慈悲な奴だ。

そうやって存在するかも分からないものにまで八つ当たりでもしないと、俺の心は晴れない。

いや、何をしたって心が晴れることは一生ないのだろう。


そんなことを考えながら辿り着いた先は、去年のあの日約束した桜の木の下だった。

あの日からちょうど一年。

彼女から離れるにはいい頃だ。

約束を達成したら、俺は彼女の何物でもない。

「なぁ、聞こえてるかよ。」

問いかけても返ってこない事くらい分かっている。
でも、問いかけずにはいられなかった。

「俺はもう一度───。」

もう一度お前に会いたい。

俺の心の声が彼女に届いたかのように、風が吹き桜の花びらが舞い踊った。

「聞こえてるよ。」

目の前にはあの日のままの彼女が立っていた。

目を擦っても、頬を抓っても、頭を振っても目の前には彼女がいた。

「約束叶えてくれてありがとうね。」

あの人同じように太陽のような笑顔で。

「お前に出会えて良かった。幸せだった。」

「私も幸せだったよ。ごめんね。でも、ずっと傍にいるから。だから私の分まで───。」

そう言って桜の花びらと一緒に消えた彼女が最後に言った言葉はきっと最後の約束。

「約束守るよ。絶対に破ったりしねぇから。」

俺はまだ彼女の彼氏でいようと思う。

そしてまたこの桜の木の下で約束をしよう。

「お前の分までちゃんと生きるよ。」