「これは……橘の忘れ形見か……?」

「明心様も橘家の某かを、御存知なのでしょうか」

「私の他にも、おられましたか?」

「はい。……まずはこの書状をお読みください。佐伯 朱里様からの(ことづけ)にございます」

 と申し述べて、既に手元に用意していた文を手渡した。

「佐伯……? おお……懐かしいお名前じゃ」

 この時、明心はそれが悠仁采であると気付いていた。急いで文を開き目を通し終えた(のち)、右京は悠仁采の陥っている状況を説明して居場所を告げた。明心の温和な表情は変わらない。

柊乃祐(しゅうのすけ)さん」

 振り返り、先程の青年を呼ぶ。しかし明心は柊乃祐を二人の傍にはやらずに、自らも近寄って何かを告げた。明心の向こうに見える穏やかな表情の柊乃祐が、一瞬鋭い目つきをしたように右京は感じたが、二人へ向き直り一礼をして、門へと駆け出した青年の(おもて)は、今までと変わらず柔和なものであった。