「おじじ様……姫の言う通りです。この場はどうかお逃げください。姫は私がお守り致します」

 右京のその申し出に、悠仁采は「やはりな」と洩らし、くっくと笑う。右京ですら、秋と悠仁采を(かば)い、自らのことに仕立てようと考えているのだ。

「まったく似た物同士であるな……何故(なにゆえ)こんな死に損ないの命を救おうとする? ……逃げるのはそなた達だ」

「え……?」

 そうして懐から一枚の書状を出し、手渡した。

「此処から堺までは急がば半時ほどであろう。街の手前の山の麓に、無束院という町医者がある。その医師 明心(みょうしん)にこの文をお渡しくだされ。二人の今後に案を授けるであろう。わしのことはお構い召さるな。が、明心に()うたら、わしの居場所を告げてくだされ」

 そこまで話して急に咳き込み、秋は驚いて彼の背を(さす)った。やがて背後より慌てふためいた伊織が駆けつける。信近の馬を見たのだろう。