「秋姫殿……それ以上は。後はわしがやります故……」

 そうして差し出した手を、水を払った掌で押し戻した秋は、

「何をおっしゃいます! おじじ様はお客人。それに傷を負っていらっしゃるのですよ。この森へ参ったら、私は姫ではござりません。秋とお呼びください」

 と、完全に遮断した。天下の悪人 八雲 悠仁采も、秋の前では形無しのようだ。が、悠仁采も負けてはいない。

「ですが右京殿は確か『姫』とお呼びであったと……」

 すると秋は途端に頬を赤らめて俯き、

「右京様にも何度もお願いしましたっ。ですが……()めてはくださらないのです──」

 必死に洗われたおとぎりは揉みくちゃにされ、少々原形を留めぬ姿になっていた。

「あらっ……私としたことが。えっと……おじじ様、このおとぎりは煎ずるだけでなく、この葉を汁にして傷口に塗りますと、止血や収斂(しゅうれん)の薬になるのですよ。昨日もおじじ様がお目覚めになる前に、私共で塗らせていただきました」