歯を喰いしばり、伏し目がちに床へと向けられた視線は次第に一点を睨み、燃え立つようであった。それはいつしかの悠仁采、いや、龍敏にも右京にも現れたものに違いない。が、そのお陰で悠仁采はにわかに落ち着きを取り戻していた。

「見ず知らずのわしなどに斯様(かよう)なことを口にするものではありませぬ。それが叶うのは天に立った者のみ。今は時を待ちなされ。伊織殿にもその機運は訪れる筈」

 そう……誰にでもその『時』は通り過ぎる。それを獲るか否かは自身の才能の度合いだ。が、わしにはなかったか……と我が身を哀れむのは一瞬のこと。

「いや……確かに……。お館様を愚弄(ぐろう)するようなこと、じじ殿に申し上げるとは……失礼(つかまつ)りましたっ」

 悠仁采に諭されはっとした伊織は、視線の行き処もおぼつかない様子で、額に現れた大粒の汗をあたふたと(ぬぐ)う。

 まるで昔のおのれを見るようだと感じ入った悠仁采は、その姿に親しみを覚えた──。