右京の言っていることが正しいのは、痛々しいほど彼には理解が出来た。と共に自らの過ちに気付かずにはいられない。月葉を失った哀しみのまま、世を突っ走ってしまった悠仁采。それとは対称的に己を押さえつけることの出来た右京。織田を倒せなかった今、全てが過ちとなろう。

「私は一度たりとも織田を憎まなかったとは言いません。……ただ」

 闇夜の深い淵から洩れてくる右京の言葉が、少し途切れてくぐもり消えた。

「ただ……?」

「ただ、私は同時に織田に助けられもしたため、憎もうにも憎みきれないのです」

 悠仁采の問いに即答した右京の口調には、少々皮肉にも似た苦笑を帯びていたことを、彼自身気付かずにはいられなかった。右京は(ひそ)かに涙する。が、それも一瞬のこと。

「もう夜も深くなりました。眠ることと致しましょう。おじじ様の傷にも障ります」

 右京のそう発したまもなくに、寝返りの衣擦(きぬず)れと柔らかな寝息が聞こえたのは、故意であったのだろうか。

 悠仁采は疑問を残したまま、やがて訪れる恐ろしい睡魔と、悪に彩られた夢を待ち焦がれながら、その重い瞼を閉じた──。



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