「朱里殿、と申されましたな。我ら城へ戻る時刻となりました故、これにて失礼致しますが、明朝にはまた戻って参ります。それまでは右京殿に従い、良く養生してください。あなた様は深く傷を受けられた……完治までには時が掛かるでしょう。ですからその身、しばらく我らにお預け願いたい」

 遠からずも力のある、伊織の達観した言葉であった。

 三人の若者達の優しい微笑みに包まれた悠仁采はしかし、既に帰り支度を始めた伊織と秋の背に礼さえも言えず、ただ惑いをぶつけた。

「何故にそなた達は、そこまでしてわしを助ける」

 戸口を開きかけた手首そのままに、秋が振り向きざまに云う。

「この森を訪れた方を、放っておくような義理はないのです」

 ──と。

「右京様、おじじ様を宜しくお願い致します」

「姫も気を付けて……」

 呆然とする悠仁采を残して、そのような会話のやり取りの後、二人は森の奥へと消えていった。

 頭上には満天の星を戴き──。