──月とは月葉のことなのか? しかし子さえ作る間もなく、病に倒れ死んでいった月葉に孫などいる筈もない。

 悠仁采はただ一言“(いな)”と答え、娘に促されるまま(くう)を眺め始めた。

 秋と申すこの娘には、月葉とは違う『意志』というものが感じられる。しいて言えばそれだけの違いで、他にはまず異なる部分など見つけることは不可能に近い。水沢家の姫であった月葉の哀しい気高さとは違い、憂いなど入り込む隙間のない秋の明るい気高さが、意志力となって溢れ出ているのかも知れなかった。

「此処は……?」

 その姿発言より高貴な者達と悟った以上、不釣合いでしかないこの小屋の様子を、悠仁采はふと口走った。

「或る狩人の家です。今は狩りに出ていて留守にしておりますが、間もなく戻られることでしょう。何も心配せず、おじじ様はこちらでお休みください」

 年は十七、八であろうか。明るい表情と仕草がそうさせるのか多少幼く見えたが、口振りは既に大人である。感情を(おもて)に表さない悠仁采に、こうも優しく微笑みかける娘がいることを彼自身不思議に思うのだが、秋の笑みはそんなことすら……今までの戦いのことすら忘れさせるほど、月葉に似ていた。