「……月っ! ──……!」

 勢い良く飛び起きると共に、驚愕な眼差しで娘を見詰めた。

 ──月葉。

「つき……?」

 すらりと痩せ細ったその娘は、その言葉と共に唇から疑問符を洩らす。余りにも似過ぎていた。いや他人より同一人物と云われれば、そのまま信じてしまうかも知れない。それほど似ているにも関わらず、もちろん他人であることに気付いた悠仁采は、娘から視線を遠ざけて愕然と頭を垂れた。

「月と申されると、我等が祖母が左様の名ではありましたが……」

 娘の背後で壁に寄り掛かり、腕を組んだ武士らしい若者が低い声を発した。顔つきが何処となく娘に似ているのは、おそらく兄妹であるのだろう。

「おじじ様……ともかく横になってくださいませ。お身体に障ります。私は月ではなく、秋と申します。……おじじ様は何処かでおばば様と会われたのですか?」

 娘はそう言って微笑みを向け、悠仁采に優しく布団を掛け直し、雨のように降り注ぐ黒髪の中から、好奇心の瞳を覗かせた。