もう既に月は東の空を我が物顔で昇り始めている。

 それでもこの時月の欠けは彼らに味方をするかのように三日月で、闇がたち込め、八雲軍にとっては絶好の戦闘日和であった。

 そして何より館を取り囲むように咲く白い月見草の群集が、武器を扱うための適した明かりとなり得ていた。

「悠仁采様……あ、れは、一体……?」

 しばらく隣で戦況を窺っていた側近が、遠くを望んでふと呟く。呆然と口を開けた男の視線の行く先を、悠仁采も(いぶか)しく辿ったが──

 彼はその情景を──己の目を、疑ったことだろう。

 何となれば。

 この戦塵の中、飛び交う矢さえ気にせず、振り上げられる刀剣にも気付かず、こちらへ向かってくる娘がいたからである。

「つっ……月葉!」

 彼は叫び立ち上がった。遠くとも判る。彼の心に月葉の念が伝わるかのように、以前響いてきた感情が今、悠仁采の胸に飛び込んできた。

 “悠仁采様を私の犠牲になどしたくはないのです!”と。

「悠仁采様! お待ちを……!」

 家臣の制止の叫びも耳に入らぬまま、悠仁采は月葉の元へと駆け出していた。