「皆は自らの位置に就け。馬が罠にはまって混乱している間に総攻撃をかける!」

 果たして家臣一同大きく頷き、部屋を出ていった。

 ──月葉が堺に着くまで長引かせねばならない──。

 ぽつりと独り大部屋の汚点のように残された悠仁采は、腰を降ろしたまま宙を見上げた。この部屋、この館。今まで月葉が居たことが嘘のようでならない。

 それほど微笑うおなごではなかったが、それでも時折見せる笑顔は可愛いものだった。

 愛しているという訳ではなかった。簡潔に言えば愛であっても、愛しているという言葉では割り切れない何かがあった。彼女は彼の半分であった。

「月葉……」

 何気なく、口癖のように呟く。何度となく口にした言葉なのに、その間と言ったら数日でしかない。

 彼女を守りたかった。守らなければならなかった。彼女は彼の半分なのだから。

 (いくさ)は負けるであろう。しかし八雲軍全員戦死するなり、自害なりすれば誰も月葉のことは知らない。知られずに済む。