「が、お前にとってはどちらも喜ばしいことではないだろう。この勝負、織田が勝つ」

 泣き出した月葉は、そのまま胸の中にしがみついていった。もう何も言わないでほしいというのか。けれど悠仁采は、月葉を受け()めたまま話し続けた。

 今、伝えねばならない。

「堺で無束院という町医者を開いている者がおる。わしも良く存じている男で、孤児(みなしご)も預かる平和な場所だ。お前は其処に行くが良い」

 この時哀れにも、(のち)の無束院の助医が自分の敵になることを知らない。

 月葉は胸の中に顔を(うず)めたまま、数回何かを言うかのように唇を動かした。しかし彼に聞こえる筈もない。口をきけぬ者の(さが)だ。

「其処へ()かば必ずや見つかることはないだろう。わしらはお前が逃げ延びる間敵を防ぐ。敵が……織田か水沢か、それとも両軍かは分からぬがな」

 皮肉のように彼は(わら)った。簡単に言えば捨て駒になるということだ。嗤っている場合などではない。嗤いながら涙が流れていることに気付く。流れて彼女の頬に落ちた。気取(けど)られたかも知れない。