「ねぇ,どこに行くの?」





突然,横から声がした。

走ってくれているちはやに追い付いて,息もあげずに声をかけてくる生徒なんて1人しかいないと私は知っている。



「ちはや,止まって」



逃げられない。

彼女は誰より速いから。



「美海……何してるの?」

「どこ行くのかなって思って。吸血なら,特待生じゃなくて,私でいい」

「そんなんじゃなくて……私,音楽室にいくの。夜休みが終わるまでがいいから,急いでるの」



ごめんねとぶら下がったまま,答えると,美海は私の目をじっと見た。



「浅海……泣いてるの? どうして? 特待生のせい?」

「ちがっ」

「どうして泣きながら浅海がお姉ちゃんのところへ行くの? 泣いてるのはお姉ちゃんのせいなの?」



私は言葉を失って,大きく開いた瞳を美海に向ける。



「お……ねぇちゃん?」

「そうだよ? いっつもピアノ弾いてるイマイ サクラは,私のお姉ちゃんだよ」

ー駆くんに聞いてないの?



最後にごく自然に放たれた言葉に,私は瞬いて。

久しぶりのその響きに,また大粒の涙を落とした。