それは,こっちのセリフだった。

転がり込んだ先,真横からかけられた声に,驚き振り返る。

男……!!!

人間の校舎,数少ない男。

つまり,ヴァンパイアじゃない。

さっき体育があったばかりだから,確信をもってそう安心した。

ついでに,違うよと答えてしまいそうになる。

私の首を絞める,この男に。

ほんとに人間? というほどまよいなく,強い力で。

男は壁に私を押し付けて,正面から片手を突き立ててきていた。

お陰で,うっかり口にするだけの息はない。

いくらヴァンパイアが怖いからって,それも自分で入学したこの場所で。

この仕打ちはないと思う。

絶対モテないし,犯罪者予備軍確定と愚痴りながら目を開くと。

人間の中にしては,数百年に1度の美形で。

そんな場合じゃないにも関わらず,モテないという言葉だけは心の中で撤回した。

好みに顔は,結局大事。

出ていきたくないのに,ここでヴァンパイアじゃないとは言えない。

でもヴァンパイアだと言えば,多分私はこのまま死ぬ。

突発的な激情に,殺される。

だから,さあ? と答えようと思ったのに。



「なんだ,人間か」



とさも人外のようセリフを吐き捨てて私を釈放するから。