人間と,ヴァンパイアの共存。
無謀とされながらも,叶っている今日。
世間は日々様々な問題に取り巻かれていた。
ヴァンパイアに陶酔し,傾倒するもの。
血液を抜かれ過ぎて,微笑みながら絶命するもの。
死した家族や恋人を想い,憎しみに囚われるものに殺されるモノ。
人間の被害は,圧倒的に思春期真っ盛りな男性に多い。
それら全ての理由は,体内を巡る血液にある。
蚊に刺されると,かゆい,なんて。
それはヴァンパイアの発現よりも前から,誰もが知っていること。
それと同じ様に。
ヴァンパイアは人間に吸血を拒否されないよう,つまりは危害を最小限にするよう。
生まれつき,八重歯に媚の効果のある毒が備わっている。
まるで最初から,人間と共に生きるために産まれてきたような存在だと思うと。
本当に馬鹿馬鹿しい。
だけどその効果まで鼻で笑うことは出来ず,1度体験すれば抜け出せない程らしい。
私はまだ,幸いその気分を知らないでいる。
それが何よりの救いだった。
人間とヴァンパイアの時代。
人口は,今やハーフにもなり。
吸血鬼の人口内訳では,8割が女性なのは有名な話だ。
見目麗しく,若々しい。
頭脳明晰の,無邪気で残酷な性格。
忘れられない,魅惑の快楽。
接触確率の高い男が溺れるには多すぎる程の条件で。
被吸血者は"任意で"との世界共通意向もあり,被害は減らない。
たとえ最初が無理矢理な犯罪だろうと,最後に堕とせば吸血鬼達にはなんの関係もない話なのだ。
そんな,ヴァンパイアが当たり前の世界で。
私は今日も,ヴァンパイアだらけのエリート高に通っている。
欠けた家族の真相を追って。
本田浅海,17歳,冬。
正真正銘人間である私が,ヴァンパイアと偽って。
そのヴァンパイアだらけの特別な学園の名前は──シルバー·ブレッド──。