『まだ』ってことは、いずれは入れる気満々の小柳くん。少し早川さんの将来が心配になりつつも、「おまえいい加減離せ」と、小柳くんの肩をメリメリと掴む純によって無事に解放された。
「小柳、遥と話したいから廊下出てて」
小柳くんに廊下に出るように促す純。追い出された小柳くんは見張り役を強いられるハメになった。
今、この教室に純と二人きりだ。
「一応、鍵閉めとくか」と、後ろと前のドアに鍵まで閉めてしまった純は、何の話があるのだろう。
窓の隅にいる私の元へゆっくり近づいてきた。
「さてと、で、小柳に何された? キスでもされた?」
私のことは嫌いなはずなのに、何故だろう、純がものすごく怒っているように見える。
「キスはされてない……」
「じゃあ何された?」
「……指で血に触れて、舐められただけ」
「…………血、舐められたんだ?」
「俺も舐めたことないのに」と重低音が響く声を出す純。小柳くんの『噛み殺されるかもしれないよ』が脳裏によぎる。
純になら噛み殺されてもいいと思っていた。そのくらいの覚悟はできていたはずなのに、いざ、そうなるかもしれない状況に陥ったら恐怖で腰が抜けてしまった。
「でも、小柳くん、マズイって言った」
助かりたいから、命乞いでこういうことを言っているわけではない。一緒に生きたいから、純には正気を保っていてほしかった。
私の前に屈んだ純は私の頬に手を添えた。
そして、
「ごめん」
と、一言、とても覇気がない声で謝ってきた。
「俺、分かってたよ、卵焼きに血入れてくれてるって」
「へ……」
「指日に日に切り傷増えてたし、なんつーか、今までに食べたことない血の濃さがしたから。俺のために毎日指切らせてごめん」
申し訳無さそうに謝る純。全て見透かされていた。



