不埒な上司と一夜で恋は生まれません

「図書館前に建つ白い家には、本好きの老夫婦が住んでるんだろ?」

 白い頑丈そうな布袋を手に家から出てくるおじいさん。

 家の前を掃いているおばあさん――。

「穏やかにこの家で暮らす老夫婦は、きっとお前が見た俺たちの未来だ――」

 さあ、入れ、とうながされ、指紋認証で開けようとしたが、開かない。

「課長っ。
 未来が私を拒絶していますっ」

 白い家のおじいさんとおばあさんの未来が、第一歩目から拒絶されているっ、と和香は慌てたが。

 耀は、
「また手が乾燥してるんだろ」
といつかのように、息を吹きかけてくれたあとで、和香の指先で指紋認証で開けさせる。

 扉は開いた。

 ガランとした、なにもない広い廊下を見ながら、和香は、初めて、その廊下を見たときのことを思い出していた。

「最初に課長をここに送ってきたとき、まさか、こんなことになるとは思ってもみませんでした」

 知らない家の扉はパンドラの箱の蓋のようだ。

 その先になにが詰まっているのかわからない。