不埒な上司と一夜で恋は生まれません

「羽積さん、私にわからせたかったんですよね?
 復讐なんてしても、なんにもならないって。

 ……ありがとうございました」

 和香はまだ長机の下にしゃがんでいる美那たちにも頭を下げ、大会議室を出て行った。

 この会社に入って働きはじめてから、いつも不安だった。

 日々の暮らしと働く充足感に流され。

 自分は復讐するもことなく、なんとなく、人生を終えてしまうんじゃないかと。

 だけど、羽積さんのおかげで、父の無念を彼らにぶつけられたし。

 彼らの罪を許すこともできた。

 こんな簡単に、彼らを許せたのは、きっと課長のおかげだ。

 課長がずっと後ろから見守ってくれていたから。

 そして、課長が私に今まで考えてもみなかったような平穏な人生を味あわせてくれたから。

 二人でご飯を食べて、図書館に行って、お散歩をして。

 そんな普通の人には、当たり前すぎて、いちいち意識することもない日常を味あわせてくれたから――。

 和香は廊下で立ち止め、耀を見つめた。