不埒な上司と一夜で恋は生まれません



 アパートの前で降りた和香に、
「伝説の妖刀、借りなくてよかったのか?」
と言うと、

「そんなもの会社に持ち込んだら、専務たちをやる前に、私が警察にやられちゃいますよ」
と言って和香は笑った。

 鉄製の階段を上って行きかけて、和香は振り返る。

「……課長」

 なんだ? と開けている窓から見上げると、和香がちょっと笑って言う。

「またお散歩して、図書館行って。
 岩城さんのケーキ買いに行きましょうね」

「……ああ」

 じゃあ、と和香は軽やかに階段を駆け上がっていった。

 シンデレラは十二時の鐘が鳴ったら、階段を駆け下りていくが。

 うちのシンデレラは駆け上がっていくんだな、とそのとき、なんとなく思った。