不埒な上司と一夜で恋は生まれません

「『人生の目標は、図書館の前の白い家に住んで、課長と子どもたちと平穏に静かに暮らすこと』って?
 長いですよ」

「臥薪嘗胆って言うじゃないか。
 薪の上に寝て、苦い肝を()め、屈辱を刻みつけ、忘れない。

 お前は、うちのふかふかのベッドに寝て、甘くて美味いケーキを食べ、今のこの幸せを忘れなければいいんだ」
と言ったあとで、耀は、

「いや、今が幸せかどうかはわからないけどな」
と不安になったように言う。

「幸せですよ」

 そう言い、和香は耀の手を握り直す。

 そうか……と耀は視線をそらした。

「あと、このケーキ屋が美味いかどうかも問題だが……」

 団地の中にあるそのお店は、小洒落た新しい家の一部が店舗になっているお店だった。