不埒な上司と一夜で恋は生まれません

 


 二人とも、よく歩いたので、ちょうどお腹が空いていた。

 目の前に提灯はあったが、こちらは裏側だったので、道路側に回る。

 雰囲気ある建物のいい香りのする木の扉をガラガラ開けて入った。

 壁際の席に案内されると、そこも木の香りがして、なんとなく、あのトンカツ屋を思い出す。

「へー、定年して蕎麦屋をはじめられたんですって」

 メニューの片隅に、人の良さそうな店長の写真とともに、蕎麦屋をはじめるきっかけなどが書かれていた。

「何故、人は定年すると、蕎麦を打ちたくなるんでしょうね。
 あとピザを石窯で焼いたり、パンを焼いたり。

 基本、なにかを()ねたくなるんですかね?
 粘土みたいで童心にかえるとか?」
と言って、そんな莫迦な……と耀に言われたとき、温かいお茶がやってきた。