不埒な上司と一夜で恋は生まれません

 



 背中を日に照らされているので、背中だけ、妙にあったかい冬の海。

 冷たい潮風の吹く中、和香は波止場から海を覗いていた。

 日差しに(きら)めく海面の下を小さな魚が行ったり来たりしている。

「これは……

 動体視力の訓練にいいですね」

「……そのうち、素手で魚を捕まえてきそうだな」

 横から和香と同じような体勢で海を覗き込みながら耀が言う。

「少し寒いな。
 大丈夫か」

「はい。
 課長、大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だ」

 キャメルのチェスターコートを脱ぎながら、耀は、
「これも着たらどうだ?」
と言い出した。

「いえいえ。
 とんでもない。

 大丈夫ですよ。
 コートの上にコート着たら、雪だるまみたいになっちゃいますしね。

 それより、温かいものでもおごりますよっ」
と和香は身を乗り出す。

 なんだかんだで、いつも耀が出してくれるからおごりたかったのだ。