不埒な上司と一夜で恋は生まれません

「だが、そんなことが過去あったというのは意外だな。
 俺が今まで接してきた専務や常務は社内でも、いい人の部類に入るんだが」

「そうですね。
 私も今の常務は嫌いじゃないです」

「そういえば、いつぞや、エレベーター前で常務と歓談していたな。

 あのとき、お前は自分のことを一人っ子だと言っていた。

 常務にお前の素性をごまかすためか」

 そうです、と和香は頷いた。

「確かに今の常務は気さくで話しやすいですし。
 専務は話しやすくはないですけど、悪い人ではないです。

 でもそれは今の地位を得て、安定したせいで生じた余裕のせいです。

 彼らにとっては、あの頃はのし上がるために、黒い力が必要だった、という思い出にすぎないのでしょうが。

 その思い出話の中の住人にも、それぞれの人生ってものがあったんですよ。

 今更、いい人になられても我々には関係ありませんし。
 なにも取り戻せません」