不埒な上司と一夜で恋は生まれません

 どうもこの人は、私を元学校の先生とか、そういう堅気な職業の人間だったと思いたいようなのだが。

 もちろん、そんな平和な過去は私にはない。

 そもそも、一度学校の先生をやってから、この会社に入ったとかいうような年齢でもないし。

 そんなことを考えながら、和香は言った。

「それで、私は、ここから逃げて、遠い地で姉と暮らしていたんですが。
 復讐するという私に姉が反対したので――」

「いたのか、姉っ」

「喧嘩になって、蚊を家に連れ込んでやりました」

「いたのか、蚊っ」

 いや、蚊は全世界の大抵の場所にいますよ、と和香は思う。