魔王城の中核に築かれた中庭に立ったジンが、隣に立つベアトリスの腰に手を回して抱き寄せる。夕暮れが迫っていた。


「サイラスから声が届いた。封印を解かれたのはやはりカオスだ」


予想通りの結果に、ベアトリスは静かに頷いた。最悪の予想はきっちり当たってしまった。


「エリアーナは無事だよ」

「エリアーナ様のご無事は何よりですわ」


ジンの腰には見慣れない剣が備わっていた。竜剣という古来から竜を殺すためだけに創られた剣だ。


「魔王様が竜剣を持っているところを始めて見ましたわ」

「竜剣を知っているのかい?」

「サイラス様から王妃教育を授かってますから」

「では、この剣の弱点も?」

「はい、お一人で使うのは不利だと聞いております」


ベアトリスがジンの顔を見上げると、ジンは地平線を見つめていた。ジンは返事をしなかった。妻をさらに不安にさせる情報はもう必要はないだろう。


今にも地平線からカオスが出現するのを見越しているジンに、ベアトリスは寄り添った。