穏やかに季節は流れ、私たちがこの家で暮らし始めて、1年が経った。

「ここ、ホントいいよねぇ…よく釣れるのに、意外と知られてない磯釣りの穴場だよ」

相変わらず、家の目の前の岩場にて、清海さんが釣り糸を垂らす横で、私は箱メガネを覗いている。

公式ホームページでは、写真週刊誌のガセネタの部分だけ、私のことを“婚約者”と記載してあったのも、今はもう“妻と地方でスローライフを送っている”だ。

後ろめたいことなどなかったから、当然といえば当然だが、清海さんのイメージダウンなどということも全くなく、そもそも、高丘清海画伯の絵を買う人は、あんな下らない週刊誌など全く読むこともなかったらしい。

よって、この甘いマスクは、ファンにも知られることは殆どなく、パパラッチも高丘清海画伯の素顔にはさっさと興味をなくした様子。

「ホント、海香子ちゃんの言う通り、僕の絵を買ってくれる人は、誰も週刊誌なんか見てなかった。仕事の関係者さえ『結婚したんだ?驚いたよ、おめでとう』なんて調子だしね。僕の自意識過剰ってやつかな」