「憶えてる?」
「何を?」
何の気なく見上げた私は,次の言葉を聞いて声を失った。
「きこに迫られて,昔,結婚の約束をした」
せま,けっっこ,ん。
冷静に考えたら,昔と言っているし,豆粒くらいの小ささの時だって分かる。
なのに,ワードの威力が強すぎて。
わざとそんな言葉選びをした意地悪なひとに,見事に踊らされてしまった。
私ってば何を,と。
結局は戻ってくるわけだけど。
「きこ,小学校1年生だった僕を砂場で押し倒したんだよ?」
くすくすと,懐かしむと言うよりからかいの強い音。
そんなの憶えてないって言えば,無かったことにしてしまえるのに。
そうすれば何だかんだ静流くんがしょんぼりするような気がして。
めんどくさい静流くんのために,唯一のカードを切ることは出来ない。
「そんときは別に,まあ,って感じで。きこはただ可愛かっただけだったし,僕もどうせ忘れるだろうって,ひどくも優しくもない事をした」
あ,今度は懐かしむ響き。
きゅっとからめとられた指は,どうやら無意識らしい。
私からも返すのは,既に恥ずかしいから後にする。



