「ただいまー」

帰宅した和仁が門をくぐると、庭にいた人が笑顔を向けてきた。

「若様、おかえりなさいませ」

「うん。……相変わらずうちは騒がしいな……」

「仕方ありませんわ、天瀬ですもの」

騒がしい、というのは、家の敷地内を動き回る人の多さ。

途中で行き会った人が、また和仁に声をかける。

「ご当主様が、帰ったら顔を出すように仰っていましたよ」

「わかった」

答えて、和仁は自分の部屋にカバンを放り投げてから、祖父の部屋に向かった。

「じいさま、ただいま帰りました」

「おう、入れ」

正座した廊下からふすまを前にして声をかけると、部屋の中から祖父の声がした。

和仁は膝をついたままふすまを開ける。

中には、書類の積みあがった机を前にした和服の老人がいた。

「お呼びでしょうか」

「仕事だ。行けるか」

「行けません。学校の課題とかあるんですよ」

据わった目で和仁は反論する。

しかし祖父は気にしない。

「んなもん放って置け。そもそも学校なんぞ行かなくていいと言っているだろう」

「それ、父さんや母さんに言って親子喧嘩でもしていてください。俺が高校へ進学することは一族会議で是(ぜ)とされました」

「まーったくお堅いのう」

「じいさんが軽すぎるんだよ。それでも祓魔師の長(おさ)なの?」

――和仁の実家である天瀬家は、この国における祓魔師一族のトップだ。

その天瀬の現当主である和仁の祖父は、祓魔師の長といって過言ない。

祖父は閉じた扇子で肩をたたく。

「わしくらい軽くいないと、御門(みかど)や小路(こうじ)の当主が厳格すぎてこの界隈がギスギスするわ」