「卒業生、答辞。卒業生代表、細川芽衣(ほそかわめい)」

「ーーーはい!」

三月一日。春だというのに体育館の中はまだグッと寒く、油断すれば肩が震えてしまう。そんな中、伊達一(だてはじめ)たち三年生の卒業式は行われていた。

「暖かい陽の光が降り注ぎ、桜の蕾も膨らみ始め、春の訪れを感じる今日、私たちは卒業の日を迎えました」

厳かな空気に包まれる体育館に、一の恋人である芽衣の凛とした答辞が響く。答辞を聴きながら、一はこの高校三年間の思い出を振り返った。

(高校、楽しかったな。部活のみんなと騒いだり、叶わないと思ってた恋が叶ったり……)

色鮮やかに輝く思い出は、一の目の前をぼやけさせていく。だが、一はふと左側に目を向けた。そこには一と同じように真剣に答辞を聴き、涙を浮かべている生徒もいる。その生徒たちが座っているパイプ椅子の一つは、空欄になっていた。

(ここにあいつがいたら、今どんな顔してたんだろ)