そして、ホテリエとしての道を歩み出した彩。まずは、その登竜門とされるベルガールとして配属され、ホテリエとして必要な知識や接客力を身に着けながら1年が過ぎた頃、上司に呼ばれた。


(いよいよ、次のステップへ、ということかな?)


彩は就活中の面接の時点から、フロントクラークを希望していると訴えていた。最前線で、お客と接するフロントクラークは、そのホテルのまさに「顔」であり、彩が子供の頃から憧れているポジションだった。


スタッフル-ムへ入り、上司の前に立った彩に告げられたのは、まさしく異動。だが、それは念願のクラークではなく、「ウェディングプランナ-」への配置転換の辞令だった。


(私が結婚式のお世話係・・・?)


あまりにも予期せぬ辞令に、彩はしばし、きょとんと、上司の顔を見つめてしまった。


希望は希望、しかしそれが必ず叶うとは限らない。それが社会、企業というものだ。動揺も落胆もあったが、そう思い直した彩は、うやうやしく、その辞令を受け取った。


(結婚か・・・。)


今はいろいろな生き方や考え方が認められる時代だ。「結婚」というものが、人生に必須なものではないという考えも増えている。


だがその一方で、今の小、中学生の95%近くが、やはり将来は結婚したいと考えている。そんな、調査結果もある。


かくゆう彩自身も、結婚に否定的ではない。いずれは生涯を共にするパートナーと出会い、結ばれたいと思っている。


だが、現実の自分は、恋愛経験も乏しく、今は恋人もいない。そんな彩にとって、「結婚」はあまりにも現実味が感じられず、身近な問題ではなかった。


(そんな私に、ウェディングプランナーなんか勤まるの?)


そんな思いを抱きながら、着任した彩は、自分の教育係になった3期先輩の藤原優里(ふじわらゆうり)に、胸の内をぶつけてみると


「別に彩の恋愛経験なんて、関係ないし、結婚観なんかどうでもいい。極端なことを言えば、あなたに結婚願望がなくたって構わない。だって、結婚するのは、彩じゃなくてお客様なんだから。」


あっさりとそう言われてしまった。