尚輝が通う県立颯天(はやて)高校は、自然豊かな環境に囲まれた文武両道をモット-にした高校。そして、彼が入部した弓道部は、宮田由理佳主将以下、各学年に10人強が在籍し、男女の比率もほぼ同数といった構成である。


弓道部の活動には、ほぼ休みがない。平日は放課後3時間。土曜日は授業がある日は、同じくらいだが、ない日は朝から昼食を挟んで、6時間ほど。日曜だけは基本的に休みだが、それでも大会が近づけば練習になる。


高校では部活に拘束されず、自由を謳歌するつもりだった尚輝にとっては、とんだ当て外れとなったが、しかし今の尚輝には、そんなことはどうでもよかった。


部活に行けば、必ず彩に会える。それが今の尚輝には、何よりの心弾むことであった。


「廣瀬先輩、お疲れ様です!」


同じ校舎内にいても、学年が違うと教室のあるフロアも違えば、カリキュラムも違うから、意外なほどに顔を合わす機会はない。何とか彩とお近づきになりたい尚輝にとって、挨拶は格好の機会。


部活の行き帰りに挨拶をすれば、彩もさすがに無視は出来ない。


「うん、お疲れ。」


突然の告白から、何かと付きまとって来る尚輝に、彩は困惑の色を隠さず、それでも挨拶は返して来る。


そのあと、どこかへ行きましょうと誘っては、彩に


「無理。」


と冷たくあしらわれることが、何度となく繰り返される。そんな日々が続いた。


「お前、めげねぇ奴だな。」


ある日、秀にそう呆れ顔で言われたが


「めげるなんてとんでもない。あの人がそんな簡単に振り向いてくれるなんて、最初から思ってねぇからな。」


そう意気軒高に答える尚輝。しかし、尚輝が彩に絡んでいる場面を秀自身、何度か目撃しているが、彩の反応は塩対応という他なく、回を追うにつれ、つれなさが増しているのがはっきり見て取れる。


(俺の心配してる通りになってんじゃねぇか。人間、諦めが肝心って言葉があるけど、今の尚輝にはまだ何を言っても、無駄みたいだしな・・・。)


高校に入って、一番に出来た友人を、秀は今は心配しながら見ているしかなかった。