それからの時間は、あっという間に過ぎて行った。明日は、いよいよインハイ予選。最後の練習、出場する部員たちは、自分が納得するまで弓を引いた。明日は悔いを残したくない、誰の気持ちも同じだった。


それも終わり、自分の周りに集まった面々に


「これでやれることは、みんなやったはずだ。俺が改めて、お前たちに伝えられることも、教えられることも、もう何もない。明日は、自分の力を信じて、ベストを尽くしてくれ。」


そう檄を飛ばした児玉の言葉に


「はい!」


彩以下の選手たちは、力強く答えた。


着換えが終わり、肩を並べて更衣室を出た彩と遥。


「いよいよ・・・明日だね。」


そうつぶやくように言う遥の横顔を、彩はじっと見つめる。


「遥。」


「うん?」


自分の呼びかけに振り向いた遥に


「今までありがとう。」


彩は万感を込めたように言った。


「えっ、何?どうしたの急に?」


驚く遥に


「遥がいなかったら、私、弓道続けて来られなかったかもしれない。」


彩は言った。


「そんなことないよ。むしろそれは私の方。彩がいてくれたから、彩がいつも私を引っ張ってくれたから、私はここまで来られたんだよ。」


遥がそう答えると、2人はお互いの顔を見つめた。


「明日、遥が横に居てくれるのが、嬉しくて、心強くて。とにかく一緒に悔いのないように力の限り、そして楽しもう。」


「もちろん。よろしくね、彩。」


力強く言った彩の言葉に、遥は大きく頷いた。


その後、遥と別れた彩は、校内花壇に向かった。陽は西に傾き始めていたが、それでもまだ十分な明るさを保っていた。そして、その前に1人の男子が佇んでいる姿が、彩の目に映る。


「やっぱりいたか。」


そう彩が声を掛けると


「お待ちしてました。」


振り向いた尚輝は、笑顔で答えた。