その日の練習が終わり、道場を出た彩に


「廣瀬先輩!」


と声が掛かる。その方を振り向いた彩の目に映ったのは、予想通り尚輝だった。


「入部しました。改めて、よろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げて来た尚輝に


「二階くん・・・だっけ?」


とやや面倒くさそうに言う彩。


「はい。」


名前を呼ばれて、嬉しそうな表情で答えた尚輝に対して


「君と前にどこかで、会ったことあったっけ?」


尋ねる彩は、硬い表情。


「いえ。」


「そうだよね。弓道の経験は?」


「いえ、今まで全然興味もありませんでした。」


「じゃ、どうして入部したの?」


「先輩と・・・お近づきになりたかったからです!」


ためらいなく、そう答えた尚輝に、彩も周囲も一瞬呆気にとられたが


「そう。まぁ、どうでもいいけど、弓道を甘く見ないで。」


「先輩・・・。」


「君、中学時代部活は?」


「硬式テニス部でした。」


「フーン、一応運動部経験者なんだ。」


「はい。」


「でも女子と一緒だから、チャラチャラと出来ると思ったら、大間違いだから。やってみればわかるけど、弓を引くのにだって、結構な力がいるんだから。まぁ弓道はテニスと違って、なかなかやれる場所も少ないし、中学で弓道部がある学校もほとんどないから、みんなほぼ初心者なんで、その点は安心してもらっていいけど、とりあえず、夏休みに入るくらいまでは、筋トレや基礎練習がメインだから。そのつもりで。」


「はい、ありがとうございます。」


「それじゃ、お疲れ。」


そう言って、歩き出そうとする彩に


「あっ先輩、このあと僕とお茶しませんか?」


と誘いをかける尚輝。だが


「無理。」


と言い捨てるように言うと、彩はそのまま歩き去って行った。