GWに入り、インハイ予選まで1ヶ月余り。いやGWが明ければ、中間考査に伴う、部活休止期間が入るから、もう1ヶ月を切っている。


彩は主将として、新入生への指導を、積極的に行っていた。その結果、自分の練習がおろそかになってしまっているのは否定できない。


「主将、インハイ予選まで、もうそんなに時間がありません。新入生の指導はほどほどにして、そろそろ自分の練習に集中してください。」


ついにたまりかねて、尚輝は言った。


尚輝自身は去年、由理佳から指導を受けた記憶がほとんどない。チ-ムの主力として、目前に迫った目標に向かって、自己の研鑽に時間を使うのは当然だと、そのことに尚輝は疑問を感じたことはなかった。


「去年とは、新入生の数が違う。先生だけじゃ、とても面倒見切れないよ。心配してくれるのは嬉しいけど、これは主将としての責務だから。それに指導はマチヒロや遥とも分担してるし、自分の練習は居残ってやってるから大丈夫。」


それに対して、彩はそう答えて、尚輝の心配を一蹴する。


「尚輝の心配はわかるが、廣瀬の責任感の強さは、お前だってよく知ってるだろう。彼女は自分がその立場にある以上、自分のことだけに力を注ぐなんて、絶対に出来ない。それが廣瀬彩なんだ。廣瀬には廣瀬の思いもやり方もある。俺は、彼女がやりたいようにやればいいと思う。それが結果的に、部の為にも、廣瀬自身の為にも、きっとなる。」


「二階くんは彩のことを本当に思ってくれてる。あの子の親友として、お礼を言わせてもらうね。でも彩は、自分に憧れて入部してくれた1年生たちをいい加減に放り出すなんて、絶対に出来ない子だから。わかってあげて。」


「遥先輩・・・。」


「私達も、及ばずながら、彩をサポートする。だから二階くんは、二階くんの出来ること、やらなきゃいけないことを精一杯やって、彩を安心させてあげて。」


ふたりの副将から、諭すようにそう言われて


「・・・わかりました。」


尚輝はそう答えるしかなかった。