なんとも落ち着かない気持ちを抱えたまま、夜を過ごした私は翌朝、心の動揺を隠したまま、出勤したが、正直仕事が手につかない。


(今の私が動揺しても仕方ないし、もう関係ないことじゃない・・・。)


自分にそう言い聞かせてみるが、やはりそんな簡単に割り切れるものではない。


だけど、昼休みになり、スマホを見ても、この件について、誰からも連絡はないし、報じられている以上のことを知ることは出来ない。といって、ではこちらから彩や斗真のご両親に連絡を取るというのも憚れる。


(そう、私と斗真はもう無関係なんだから・・・。)


そう思って、1つため息を吐いた私に


「宮田。」


と声が掛かる。振り向くと職場の先輩である清水翔(しみずしょう)さんと目が合った。


「なにかあったのか?」


清水さんは心配そうな視線を私を向けてくる。


「いえ、大丈夫です。」


私は首を振る。


「そう、ならいいんだけど・・・なんか今日は朝から、元気がないような気がしたから。」


「ご心配をお掛けしてすみません。でも、本当に大丈夫です。」


私はそう言って、清水さんに笑顔を向ける。


「そうか。じゃ、飯行くか。」


「はい。」


清水さんの誘いに、私は席を立った。


この時間のオフィス街の食事処は、どこも行列が出来ている。私たちは夜は居酒屋になる店のランチ定食を目当てに、列に並ぶ。5分程で席に案内されると、すぐにオーダ-。そして数分も経たないうちに、私たちのテーブルには、注文した定食が並ぶ。この手の店は味と価格と、そして食事の提供時間の早さが勝負だ。


そして、限られた時間で、オフィスに戻らなければならない私たちも、会話もそこそこに箸を動かす。それでも、気さくな口調と仕草で話し掛けてくれる清水さんに、私の心は和む。


だが、お後がつかえているので、長居は禁物。食事が済むと私たちは、そそくさと席を立つ。会話を交わしながら、肩を並べてオフィスに戻った私たちは


「じゃ。」


「はい。」


と声を掛け合い、それぞれのデスクに向かう。毎日ではないが、こうして清水さんと2人で昼食を共にするようになって、そろそろ半年になる。清水さんの後ろ姿を見ながら、私はフッとため息をついた。