「でもさ・・・今更、京香ちゃんに申し訳ないとか綺麗ごとを言って、自分の気持ちから逃げ回って、結局それが何になるのかなって思ったら、すっと霧が晴れたような気持ちになって。」


「・・・。」


「そして決心出来たんだよ、もう自分の気持ちに素直になろう。なってもいいんじゃないのかなって。そう思ったら・・・私は後輩のみんなとまた弓道がしたくなった。そして尚輝に会いたくなった。そして今、私はここにいる。10年前に言えなかった『尚輝とずっと一緒に居たい』って言う、自分の気持ちをここで、この場所で素直にあなたにぶつける為に。」


そこまで言い終わった彩は、1つ息を吐くと


「長々とごめん。だけどこれが・・・さっきの尚輝の問いに対する、私のウソ偽りない答えだから。だから最後にもう1度だけ・・・廣瀬彩は、二階尚輝が・・・大好きです!」


少々顔を赤らめながら・・・しかし彩はついにそう言い切った。流れる沈黙、見つめ合う2人。すると、尚輝はいきなりガバッとばかりに、彩を抱き寄せた。


「ちょっ、ちょっと・・・あんた、何考えてるの?ここ学校だよ、誰かに見られたら・・・。」


焦る彩に


「今まで散々、自分の思いを語って、俺をその気にさせといて、今更そんなこと言うなよ。それこそ綺麗ごとだろ!」


今まで彩に対して、決して使ったことのない乱暴な口調と仕草で、尚輝は答える。


「尚輝・・・。」


「俺は・・・ここで彩に一目ぼれして、彩に告って、彩に振られて・・・でも10年経って、大逆転で今、彩に告られたんだ。舞い上がるなって言う方が無理だろ。」


「う、うん・・・。」


いきなり呼び捨てにされて、戸惑いながら・・・しかし彩は抵抗せず、逆に徐々にその身を尚輝に寄せて行く。


「京香、ごめん。でも俺はお前に見破られた通り、彩が好きだ。この世の誰よりも彩が大好きだ。だから・・・俺はもうこいつを離さない。」


「こ、こいつって・・・。」


いきなりこいつ呼ばわりは、さすがに聞き捨てならんと抗議の声を上げようとした彩の行動はしかし、実らなかった。なぜなら、尚輝の唇が、それを封じてしまったから。


一応抵抗しようとした彩だが、今の尚輝の前では、それはあまりに無力だった。


(ホントに知らないよ。教師がこんな所で・・・誰かに見られてたら、懲戒免職ものだよ・・・。)


心の中で、尚もそんな「綺麗ごと」を言っていた彩だったが、そんな冷静な彼女は、すぐにいなくなり、結局恋人となった後輩の、その情熱的な口づけに溺れていった・・・。