やがて、その扉が開き、中から校長と共に出て来た京香は、尚輝の視線に気付くと、フッと目をそらす。


「みなさん、お揃いのようですので。」


校長が、一同に向かって話し始めた。


「お聞き及びの先生もいらっしゃるようですが、本校で3年間、教鞭を執っていただいた菅野先生が、一身上のご都合により、今年度限りで退職なさることとなりました。美術担当として、また今年度は1年生の担任として、熱心にご指導いただき、私としても残念なのですが、本日が最終出勤日となりますので、菅野先生からご挨拶をいただきたいと思います。」


その言葉を受けて


「突然のお知らせになってしまいましたが、本日をもって、本校を退職させていただくことになりました。私にとって、本校は母校でもあり、その母校で教鞭を執らせていただいたのは、大変光栄であり、また充実した日々を過ごすことが出来ました。ですが、また自分で絵を描きたいという気持ちを抑えきれなくなり、今回我が儘を言わせていただくことになりました。3年という短い期間ではありましたが、校長先生を始め、諸先生にはご指導ご鞭撻をいただき、感謝の言葉もございません。本当にありがとうございました。」


京香は挨拶の言葉を述べ、一同からは拍手が起こる。そして職員から花束を受け取ると、笑顔でお礼を言っている。


全てが当たり前のように進行していた。その流れを止めようとする人も、疑問を呈する人も、誰もいない。尚輝は1人取り残されたように、茫然とその情景を見つめるしかなかった。そして京香は、最後に一礼すると、荷物と贈られた花束を手に、職員室を去って行った。その後ろ姿に、尚輝はハッと我に返ったが、彼女を追いかけることは出来ない。この後、終礼を兼ねた教員ミーティングがあるからだ。


そんなもの、もうどうでもいい。本当は全てを放り出しても、京香を追い掛けたかったが、やはりそれは尚輝には出来なかった。


ミ-ティングは15分程で終わり、校長が解散を告げると、尚輝は次の瞬間、ものすごい勢いで立ち上がった。周囲の教師たちが、驚くのも構わず、脱兎のごとく、部屋を飛び出そうとする尚輝を


「二階くん。」


校長が呼び止める。