「彩さん。私、彩さんに教えていただいたこと、全部覚えてます。でもそれは、ずっと私にとって反発と否定の対象でした。でも今は・・・違います。今は、彩さんの教えを胸に、彩さんのようなお客様に寄り添うことが出来るプランナ-になりたいと思って、日々、頑張ってるつもりです。本当は彩さんを連れて帰って、また一緒にお仕事したいです。でも残念だけど、私の力ではどうにもできない。だからせめて、彩さんにお詫びして、彩さんに相川は変わったってことをご報告したかったんです。彩さん、今更ですがお世話になりました。本当にありがとうございました!」


そう言い終わると、静はもう一度、頭を下げた。


「なんか照れるな・・・。」


そんな声が降って来て、静が顔を上げると、彩が本当に照れ臭げに、こちらを見ている。


「でもさ、そう言ってもらえると、正直嬉しい。私がベイサイドシティでやってきたこと、間違いじゃなかったんだって、言ってもらったような気がする。ありがとう、静。」


「いえ・・・。」


礼を言われて、一瞬恥ずかしそうな表情になった静だが


「あの・・・。」


改めて彩を見た。


「今晩こちらに泊めていただけませんか?」


「えっ?」


「勝手なお願いで、すみません。でももし彩さんとキチンとお話出来て、仲直り出来たら、お泊りさせてもらって、もっといろんなお話をしたい、そう決めてたんです。だから明日もお休み取って来たんです。図々しいのは百も承知ですが、お願いします。」


そんなことを言い出した後輩を、やや呆気にとられた表情で見ていた彩は、でもすぐに笑顔になると


「よし。じゃ、近くにいい日帰り温泉があるんだ。まずはそこに行ってみようか。」


と誘う。


「はい。」


静は嬉しそうに頷いた。


帰って来た両親は、突然の宿泊客に驚いていたが、大歓待してくれた。娘の久しぶりの明るい表情を見て、両親も嬉しそうだった。


そして、その夜は、まるで仲の良い姉妹のように、夜更けどころか明け方まで話に花を咲かせた2人。翌日、母親の見送りを受けて、彩が静を最寄り駅まで送り届けたのは、昼食後間もなくだった。


「楽しかったです、ありがとうございました。」


「私も楽しかった。忙しいと思うけど、よかったら是非また遊びに来てね。ウチの両親も大歓迎だから。」


「はい、喜んで。先輩もたまには、あっちに出て来て下さい。」


「わかった。じゃ、みなさんによろしく。静、頑張るんだよ。」


「ありがとうございます、じゃ失礼します。」


そう言って、名残惜しそうに手を振りながら、静はプラットホ-ムに消えて行った。


(静、本当にありがとう。お陰で、私もようやくもう一回立ち上がろうって気になった。あんたに負けないように頑張るから。)


静の姿が見えなくなると、表情を引き締め、彩は歩き出した。