事前に


「クリスマススティは彩のホテル、予約するか?」


ニヤニヤしながら、斗真に言われて


「それだけは勘弁して下さい。」


顔を真っ赤にして、彩は頭を振った。そして、実際に斗真が(いざな)ったのは、彼女の勤務先よりツーランクはグレ-ドが上のホテルの、それもスイ-トル-ムだった。


「ちょ、ちょっと待って下さい。こんな豪華な所・・・。」


慌てる彩に


「クリスマスが終わったから、少しお値打ち価格になってるんだよ。」


斗真は笑って答えるが、クリスマスシーズンが過ぎても、年末年始のハイシ-ズンであり、同じ業界に勤めている彩が知る限りでは、「目玉が飛び出る」価格なはずだ。さすがに戸惑い、躊躇っていると


「もう予約済なんだから、今更キャンセルできねぇだろ。」


平然と言う斗真に、彩は事前に場所を確認しなかった自分の迂闊さを後悔した。更にその後、ディナ-を摂りに向かった最上階のレストランは、全面に広がる夜景を堪能しながらいただく、フランス料理のフルコ-ス。


それはそれは素敵な時間のはずだったが


(これ、まずいよ。本当にいくらかかってるの?とても斗真さんに、全部なんか払わせられない・・・。)


彩は動揺して、楽しむ余裕がない。更にコースが終わると


「彩、これを受け取って欲しい。遅れてしまったけど、クリスマスプレゼントだ。」


と差し出された包みには、どう見ても通常のそれよりも1ケタ違っているとしか見えないリングが入っていた。


「斗真さん、いくら何でもこれはいただけません。私たち、まだ付き合い始めてからまだせいぜい3か月じゃないですか?それなのに、こんな高価な・・・これじゃ、まるでエンゲ-ジリングです。」


戸惑いを露にする彩は


「俺は一応、そのつもりなんだけど。」


と斗真に返されて、固まってしまう。


「気が早いと思うかもしれない。でも俺たちは昨日今日出会った仲じゃないだろ。」


「それはそうですけど・・・。」


「自分で言うのも何だけど、確かに今回は結構奮発した。これをこれから、毎年期待されても困るけど、でも今年は彩と初めて一緒に過ごすクリスマスなんだ。だから、思い出に残るようなものにしたかったんだ。これからずっと一緒にクリスマスを過ごそうって誓い合った記念にしたいんだ。だから、もし彩がこの俺の思いに頷いてくれるなら、受け取って欲しい。」


そう言って、斗真は真っすぐに彩を見つめた。