「やっと笑ってくれたな。」


「えっ?」


「この間の試合の時もそうだった。廣瀬、なんかよそよそしくって、ちょっと寂しかったぞ。」


「えっ、そんなこと・・・。」


斗真にそんなことを言われて、慌てる彩。まさかあなたに久しぶりに会って、ドキドキしちゃってるからですとも言えず、困っていると


「廣瀬は笑っていた方が魅力的だぜ。俺は現役時代、お前が『頑張ってください、先輩。』って笑顔で言ってくれるのが、何よりの励みになったんだ。これ、由理佳には内緒だぜ。」


なんて笑顔で言い出すから、


(か、からかわないでよ・・・。)


いよいよ、彩は困惑する。


「ところで。」


と表情を改めた斗真は


「主将就任、おめでとう。」


と祝福する。


「ありがとうございます。」


「廣瀬。」


「はい。」


「少なくとも、一緒にやった女子の中では、俺はお前がNO1だと思ってる。」


その言葉に、彩は驚いて、斗真の顔を見つめる。


「お前は選手としても、主将としても、由理佳を超えられる。」


「先輩・・・。」


「俺も由理佳も、競技としての弓道は高校までになるが、お前はきっと先に進めるはずだ。だから頑張ってくれ。今日は、それを伝えたくて、ここに来た。」


あまりにも突然の言葉に、返事も出来ない彩。


「練習の邪魔をして済まなかった。もう少し練習を見てから、お暇するよ。」


「はい・・・いろいろとありがとうございました。」


ようやくそう言って、頭を下げた彩に、笑顔を返した斗真は


「そう言えば、二階尚輝って、どいつだ?」


と聞いてきた。


「えっ?・・・あ、あの子ですけど。」


と尚輝を指差した彩は


「彼がどうかしましたか?」


と不思議そうに聞く。


「いや、今年の1年男子の期待の星って、さっき町田が言ってたからな。激励してやろうと思って。じゃ廣瀬、またな。」


そう答えた斗真に、一礼して、彩は練習に戻って行った。