「えっ?」


唐突な尚輝の提案に、彩が驚きを隠せないでいると


「実は今、葉山がOGとして、指導に来てるんです。アイツ、将来は俺の後釜狙ってるなんて言いやがって。」


「そうなの?」


天真爛漫な千夏らしいと、彩は思わず笑ってしまう。


「でもアイツが来てくれるようになってから、今更だけどわかったんですよね。女子には女子の心や身体の悩みがあって、それに寄り添うにはやっぱり同性の指導者が必要だなって。」


「尚輝・・・。」


「ただ葉山も自分の練習も授業もあるから、なかなか頻繁にってわけには、いかなくて。もし、彩先輩が来て下さるなら百人力です。部員も葉山もきっと喜びます。是非、よろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げる尚輝を、彩はやや困惑した表情で見ていたが


「そう言ってもらえるのは、嬉しいけど、私は大学出てから、ほとんど弓触ってないし、お役に立てないよ。現に今日だって、3射で1中だし、そんなのが指導なんて、おこがまし過ぎるよ。」


慌てて首を振った。


「いや、そんなのちょっと練習すれば、勘なんかすぐに取り戻せます。自分の練習も兼ねて、是非。」


尚も食い下がる尚輝。


「わかったよ。とりあえずすぐには返事出来ないから、少し考えさせて。」


「わかりました。前向きに検討、よろしくお願いします。」


そんなことを言い合った2人は、ちょっと吹き出すように、笑顔を交わす。


「ごめん、すっかり長話しちゃって。尚輝は今日はこのあとは?」


「秋に倫生が結婚するんで、その前祝いを。他の同期の連中は先に行って、だいぶもう盛り上がってる頃ですよ。」


「えっ、そうなんだ。じゃ付き合わせて悪かったね。」


慌てる彩に


「いえ、先輩に会えてよかったです。昼間あんまり話せなかったから。」


尚輝は笑顔で答える。


「そっか、キノも結婚か・・・。」


「実家のコンビニにバイトに来てた女子大生をちゃっかりゲットしたらしいです。」


「なるほど、じゃ将来のコンビニ経営は二人三脚でバッチリだね。」


そう言って笑い合った後


「そう言えば、尚輝の方はどうなってるの?」


彩は尋ねる。


「俺ですか?京香も今年から担任持って、張り切ってるし、まだまだ当分先の話ですよ。」


答える尚輝に


「そっか・・・。」


応じた彩の表情は、フッと曇っていた。