彩の主将就任を知った時、尚輝は大袈裟でなく、奮い立った。


ようやく地味な基礎練習も卒業時期が近づき、上級生達と一緒に練習が出来るようになることに、心弾ませていたところに届いたニュース。


彩が主将となれば、直接指導を受ける機会が増えるはず。彼女に自分をアピールするチャンスも増えるはずだ。


彩に心を開いてもらう為には、彼女がひたむきに取り組む弓道を蔑ろにしては、絶対に無理なことだということは、さすがにもう、尚輝もよく理解していた。


「やるぜ、俺は。」


そう張り切る尚輝を見て


「そうだな、まぁ頑張れ。」


と、秀はあまり心のこもっていない声援を送るが


「おぅ。」


そんなことは意に介さず、とびきりの笑顔で応えた尚輝は、教室を飛び出して行く。


(変わりゃ、変わるもんだ・・・。)


ついこの間まで、今にも弓道部から逃げ出しそうな勢いだったのにと、呆れながら見送った秀だったが、ふと、


(そういや、中学の時に、憧れの教師の気を引きたい一心で、大嫌いな科目の勉強を猛烈に始めたら、ついにその科目で学年トップの成績に躍り出た奴がいたな・・・。)


そんなことを思い出した。


(だとしたら、こういうのもアリかもしれねぇか。ひょっとしたら、ああいう単純で一途な奴が案外、弓道部のエースになれるのかもしれないし、まさかと思うような高嶺の花を射止めるのかもな。)


「尚輝、頑張れ。」


そんなことを考えていたら、思わず、秀は改めてそう口にしていた。