教員生活2年目を迎えた京香。恋人の尚輝は、2年目に初めてクラス担任となった。まして自分は院卒で、当時の尚輝より年齢も経験も重ねている。


当然、自分もクラスを受け持てると期待していたが、前年度京香と共に美術を担当していた講師が、急遽退職してしまい、今年度は全学年の美術の授業を、京香が一手に担わなければならなくなってしまったことから、見送られた。


「あ〜ぁ、張り切ってたのになぁ。ショック。」


校長からそのように通達された日、京香は落胆を隠せず、しょげた表情で尚輝に言った。


「仕方ねぇだろ、気持ちはわかるけどさ。それにしても、まさか、あの先生、いきなり辞めちゃうとはな。」


「うん。私も何にも聞いてなくてさ、ビックリしたよ。」


「絵の勉強の為に、海外留学するんだって?」


「そう、自分のスキルを更に磨いて、画家として勝負したいんだって。凄いよね。」


「京香も本当はそうしたかったんじゃないのか?」


「う〜ん・・・正直言って、絵を描くことを職業にするっていうのは、そんな簡単なことじゃないからね。」


「そっか、そうだよな。」


「絵は好きだし、一生関わって行くつもりだけど、それにはいろんな形がある。向こうで2年間、講師として、教壇に立ってみて、これが私の目指す道だなって思えたからね。それにさ。」


「うん?」


「離れ離れも、もう限界だったし。」


尚輝の顔を見て、少しはにかんだような表情で告げる京香。その表情と言葉に、ハッと彼女を見た尚輝は


「京香。」


呼び掛けると、次の瞬間、思わず愛しの恋人の身体を抱き寄せる。


「ありがとう。」


「うん・・・。」


尚輝の腕の中で、京香はコクリと頷く。


「今年は残念だったけど、でもそのお陰で、来年は一緒の学年で担任やれるかもしれないな。」


卒業生を送り出した担任は、翌年は1年生を担当するのが通例。また、担任を初めて持つ場合も、1年生からスタートするケースが圧倒的だ。


「そうだね、そうなったらいいな。」


「そうなれるよう、お互い、今年1年、また頑張ろうな。」


「うん。」


見つめ合う2人の唇は、やがて重なって行った。