「お前をプレッシャ-から守ってやらなきゃいけなかったのに、不安に震えるお前に寄り添ってやらなきゃいけなかったのに・・・葉山なら大丈夫だ、勝手にそう思い込んでしまっていた。許してくれ。」


そう言って、また頭を下げた尚輝に、千夏はフルフルと首を振った。


「先生が謝ることなんかないです。これは私の問題なんです、私が勇気がないから、私が弱いから、そして私が弓道が下手だから・・・先生を始めとしたみんなに迷惑を掛けてしまってる。本当にごめんなさい。」


「バカなことを言うな、絶対にそんなことはないぞ。この間の大会は、確かにうまくいかなかった。そういう時だってある。一度の失敗で、自分にそこまで自信を失う必要なんて、絶対にない。」


「・・・。」


「葉山、もう一度、一緒にやろう。お前には無限の可能性がある。俺は頼りない顧問かもしれないが、弓道が好きなこと、弓道に対する情熱は誰にも負けてないつもりだ。だから、あと半年、力の限り、お前をサポ-ト・・・。」


「もう止めて!」


懸命に訴える尚輝の言葉を、遮るように千夏は叫んだ。


「そうだよね。尚輝っちにとって、私は所詮生徒の、弓道部員のひとりに過ぎないんだもんね。」


「葉山・・・。」


千夏たち女子部員が、自分のことを影で「尚輝っち」と呼んでいることは知っていたが、面と向かって、それも真面目で礼儀正しい千夏からそう呼ばれて、尚輝は驚きを隠せなかったが、更に


「私、なにひとりで勝手に勘違いしてたんだろう。バカだよね・・・。」


千夏が泣き笑いでそう言ったあと


「退部・・・させて下さい。」


彼女が口走った言葉に、愕然となる。


「お世話になりました。」


そう言って、面談室を飛び出して行く千夏。先日の弓道場と似たような、しかしより深刻な状況に陥り、だが尚輝は、為すすべなく、ただ固まってしまっていた。