「でもさ。」


「うん?」


「彩さんも複雑だったろうね。」


「なにが?」


「よりにもよってプランナ-として、親友の結婚式に立ち会うなんて。」


「なんで?」


「先を越されちゃったんだから。」


「えっ?」


何を言ってるんだと言わんばかりに問い返す尚輝。


「友たちの結婚を素直に祝福できない気持ちって、女子には特にあるあるだよ。」


「そんなわけねぇだろ!」


京香がそう言った途端、尚輝が大きな声を出す。


「彩先輩はそんな心の狭い人じゃねぇ。まして遥先輩とは、高校以来の大親友なんだぞ。町田さんと遥先輩のことを、ずっと近くで見守って来たんだ。その彩先輩が、そんなくだらねぇ感情なんか持つわけねぇだろ。バカなこと言ってんじゃねぇよ!」


顔を真っ赤にして、そうまくしたててくる尚輝を、びっくりした表情で見つめていた京香は


「ごめん、悪かったよ。でもそんなに怒鳴らなくったって・・・。」


としょげながら言う。その恋人の姿に尚輝は、ハッと我に返ると


「す、すまん。つい興奮しちまって・・・。」


そう言って頭を下げる。気まずい空気が流れ、会話が途切れる。どのくらいお互いに黙っていたのだろう。


「じゃ、そろそろ帰るね。また明日。」


作ったような笑顔で、そう言うと京香は立ち上がった。


「送ってくよ。」


それを見て、尚輝も慌てて立ち上がる。


「ううん、大丈夫。尚輝は今日も仕事で疲れてるんだし、電車もバスもまだあるから。」


首を振って、ドアに向かう京香を


「京香!」


後ろから抱きしめる尚輝。


「こんな別れ方、嫌だ。俺が悪かったから、機嫌直してくれよ。」


「尚輝・・・。」


その言葉を聞いて、京香の身体の力がフッと抜ける。


「私も嫌。だから・・・。」


腕の中で、くるりと反転した京香は、尚輝を見上げて、目を閉じる。もちろん、その仕草の意味を理解して、尚輝は差し出された唇をためらうことなく奪う。


熱くて、濃厚な口づけ。むさぼり合うように、お互いの唇を吸い、舌を絡め合う2人。やがて、リップ音と共に離れる唇。上気した表情で2人は見つめ合う。


「昨夜の続きは、今夜は駄目だよ。」


恥ずかしそうにそう呟いた京香に


「わかってる。名残惜しいけど、これで送ってくよ。」


答えた尚輝に、京香はコクンと頷いた。