「綾瀬くん、何で……。そんなことをしたら綾瀬くんはもう、普通の人じゃなくなるんだよ!?」

花澤さんは泣きながら怒る。ああ、こんな風に怒る人なんだ。僕は仮面の剥がれた彼女に対し、心を躍らせながら言う。

「今まで、誰かに興味を持ったことなんてなかった。家族や友達と呼べる人間を愛したことも、信頼したことも、大切だと思ったこともなかった。でも、花澤さんのことはいつの間にか目で追うようになってた。……これがどういう感情なのか、まだわからないけど」

ただ、触れてみたいという思いはあって、僕は花澤さんを抱き締める。華奢な体からは花の香りがして、僕の鼓動が早まったような気がした。

「もうこれで、君は独りじゃないよ」

花澤さんの目から、涙が零れ落ちた。