恋花ロマンチカ


誰かいるかな、と、恐る恐る非常階段に行けば、そこには先客はいなかったので、ひと安心する。

「あ、涼しいんだここ。静かだし人気ないって、あんた良く食われないのね」

「え、ご飯食べてるよ?」

「……片桐先輩の前でもそんなんなの?」

「?なにが?」

セリナのよく分からない言葉に首を傾げていれば「あちぃー」 と、襟元を扇ぐ片桐先輩の手には、見慣れた紙袋が下がっていた。

漸くお弁当箱を広げていると、片桐先輩は辛そうなパンではなく、メロンパンを取り出した。

「あれ?菓子パン食べるの珍しいですね」

「いつもの売り切れてた」

ぶっきらぼうに彼は言うから、それには少しだけ申し訳ない。

「えっと……替えましょうか?」

「なにを?」

「…………お弁当。その、お詫びに…………」

「え、いいの?」

今日のお弁当の中身は鯖の味噌煮とか唐揚げとか、お兄ちゃんのリクエストが多いから、多分片桐先輩でも大丈夫だろう。

……多分。

「変な味は、しないと思います」

どうぞ、と、まだ手をつけていないお弁当を差し出すと、変わりにメロンパンを受け取る。

「えー、俺、ひなが弁当作ってくれんならずっとここでいいや」

「何も作るとは言ってませんよ」

彼は普通に箸を進め「うま」と言ってくれるから、ほっとして口を大きく開けて、メロンパンを頬張った。

全部を難なく食べてくれた片桐先輩だけど、卵焼きだけは「あますぎ」と言っていた。